● < エピソード1 > ひきこもりK君の実例 前半
〜小沢隆著書「武道の心理学入門」より
K君の両親は、父親の経済的破綻から、彼が5歳のときに離婚していて、いわゆるカギっ子として育ったものの、小・中学校と割と順調に進級し、成績も中位で、特に何の問題もなかったようでした。
ところが彼は、高校に入学してから突然引きこもるようになり、本人自身も、何故部屋から出られなくなったのか、自覚的には全くその理由がわからなかったそうです。
私が20歳を目前にした彼に初めて会った時の第一印象は、決して悪いものではありませんでしたが、プライベート話、特に家族の話になると口が重く、感情が自分の表情に出ることを極端に恐れているようでした。
しかし、コミュニケーションの甲斐あって、その後、彼は空手をはじめるようになり、次第に学校へも通うようになりました。
いつも穏やかそうに見える彼の口癖は、
「僕は幸せです。」
という言葉だったのですが、私は彼のこの言葉が、感情を露出することに対する恐れをカモフラージュするための言動だと感じていました。
私はいつも心なしか寂しげな彼に、宮崎駿監督の大作アニメ映画「千と千尋の神隠し」に登場したキャラクターからとった『カオナシ』というあだ名をつけました。
そして、彼に感情を一度思いっきり吐き出させなければと、彼の口に毒まんじゅうを投げ込むチャンスを伺っていたのです。
180cm100kgの彼の空手の大会での試合ぶりは、余りにも消極的で、仲間達からはいつも罵声が飛ぶ有様でした。
私はそんな彼の様子を見ていて、彼が本来の自分自身の力を発揮出来るようになるためには、感情を一度思いきり吐き出させなければと感じていたのです。
そんな時彼は、偶然恋をしました。ある支部の道場開きの二次会でたまたま入った飲み屋に勤めていた、彼の母親によく似た女性に。
私は、このことが彼のコンプレックスの自覚につながり、彼にとっての毒まんじゅうになると直感しました。
しかも珍しいことに彼は、その後いつになく積極的にその店に行きたいと私に懇願したので、彼を伴い数人でその店に何度か通うことになったのです。
そして何度目かの帰り道、店を出て車に乗り込み、300メートルくらい走った辺りで、もう一人の弟子のO君との打ち合わせ通り、K君に向かって何気なく
「なんか面白くないよなあ。もう今日でこの店に来るのは終わりにしよう。」
と話しかけると、彼は急に大声で泣きはじめたのです。
私のにらんだ通り、彼は幼い頃、母親の愛情に強いフラストレーションを感じ、自分は愛されていないと感じていたのです。
その思いがコンプレックスとなり、無自覚なまま彼の意識に影響を及ぼし、思春期に入り性の目覚めの時期に、異性に愛されないかも知れない自己を自覚することを恐れました。プライドの高い彼は、その感情を他人に悟られることを無意識的に避け、「引きこもり」となったのです。
そして彼は、武道をはじめて引きこもり状態が解消された後も、常に感情の露出を恐れていました。そして彼の無意識に住む、幼い悲しみに満ちた彼は、母親を彷彿させる女性に転移することで、封じ込められていた悲しみを解き放ったのです。
その後・・・
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posted by dhyana at 16:01
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青少年更生体験記
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